巻 頭 言
平成23年3月11日午後2時46分、宮城県沖を震源とする巨大地震が発生しました。千年に一度と言われる規模の、マグニチュード9.0という世界でも史上四番目に大きな地震です。それに伴って発生した超巨大津波は、最大37メートルの高さに達する、専門家も「想定外」と言うほどの巨大さで東北各県の太平洋沿岸地域を襲い、あっという間に壊滅的な大被害をもたらしました。地震だけではなく、それに伴う津波の被害がいかに凄まじいものだったかが分かります。併せて、東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う放射能汚染は、周辺地域の住民だけでなく、日本全体の電力供給、交通、農業、漁業、医療、工業などあらゆる経済・社会活動に深刻かつ長期的な負担を強いています。東日本大震災は、我々の想像を絶する多くの死亡者、行方不明者、被災者を出したのです。震災から一年を過ぎ、このような災害をもたらした「自然の力と人間の愚かさ」に対する言い知れぬ想い、恐怖、絶望感、憤怒から、人々は、何か語るべき言葉を探し、その言葉を徐々に表しはじめています。
東北大学も、多大な被害を受けました。しかし、そのような状況のもとで、被災地にある大学として、可能な限り被災地・被災者に目を向け、共に、今をどう生き、復興と再生のためにどのような方策があるのかを真剣に考え、方法を広く提言するという課題が課せられているように思います。それを本のかたちに残すことが必要で、その仕事をなすべきは我々東北大学出版会ではないだろうか。そのような観点から、「今を生きる――東日本大震災から明日へ! 復興と再生への提言――」という叢書を刊行することにいたしました。刊行に込めた思いは、震災による死者たちの記憶を風化させることなく、確かなものとして留めることです。執筆者は東北大学関係者が中心となりますが、他の大学や各分野の専門の立場や視点からも、今回の震災で経験した貴重な新しい「知」をどのように生かすべきか、また、現在の「生、あるいは生活」をより良い方向へ進めるための指針を、オリジナルの論考をもって示していただくことをお願いしました。
本叢書は、企画段階では全五巻を予定しております。その第一巻として、文学、哲学、倫理学、宗教学などの立場からの論考を中心とした「1 人間として」を刊行します。その後は順不同で、法学・経済学からの「法と経済」、工学・理学・農学からの「自然と科学」、医学・福祉からの「医療と福祉」、教育学からの「教育と文化」を随時刊行いたします。
この叢書が、多くの方々に読まれ、未来への希望を示す糧となればこの上ない幸せです。執筆に協力していただいた多くの方々に感謝して巻頭の言葉とさせていただきます。
久 道 茂