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ゆらぎの科学と技術-フラクチュオマティクス入門-
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『ゆらぎの科学と技術-フラクチュオマティクス入門-』
山本光璋・鷹野致和 編

定価(本体2,700円+税) A5判、280頁 
ISBN978-4-925085-90-8 C3040
(2004年9月第1刷発行) (2004年12月第2刷発行)

フラクチュオマティクス(fluctuomatics)とは、ゆらぎ(fluctuation)と情報学(informatics)の合成語である。ゆらぎの計測、解析、解釈という情報学の手法を仲介し、科学と技術を接着して一体化し、予測・発見・創造を先導する魅力的な学問分野となっている。ゆらぎは複雑系における情報処理や制御過程を反映した情報源である。それゆえ、森羅万象をゆらぎの土俵で特性解析するところから始まる研究のパラダイムが大きく開けている。本書では、ゆらぎの解析理論を紹介した上で、心拍変動、脳単一ニューロン活動、遺伝子発現、経済現象、企業活動、中国農村の社会構造データ、インターネットデータ、東海地方の測地データ等の具体例を取り上げている。

各章のショート・サマリ

○技術者は個別科学に精通したサイエンティストでもなければならない。また、科学者は地球環境と人間の内的環境に配慮することができるシステム・デザイナーでもありたい。フラクチュオマティクスはこうした目標に接近するための場を提供している。(第1章:山本光璋)
○統計的推論は、与えられたデータに対し、形式的に統計手法を適用するのではなく、利用することが可能な、対象についてのあらゆる知識と経験を加味して適用することが肝要である。必要とあらば新しい実験をすることも視野に入れることになる。(第2章:赤池弘次)
○統計的モデルは、データに対してユニークに決まるものではなく、いろいろな立場や知識と経験によって多数のものが考え得ることになる。いくつかの候補の中で最も適切なモデルを使うことが必要である。(第3章:北川源四郎)
○統計科学は異種・多様な情報の統合による隠れた情報の抽出や、あるいは結合させたものの自動検索を可能にする。この結果、統計モデルに基づく汎化的推論機能を利用した未分野への挑戦が今後いろいろ期待できる。(第4章:樋口知之)
○生体信号や行動学的パターンに特徴的に現われるリズムやゆらぎを、背景にある生理学的機能の現われであると考え、それらのダイナミクスの解析やモデル化を通して、その機能を実現しているメカニズムを知ろうとしている。(第5章:中尾光之)
○我々の心拍動のリズムは絶えず不規則にゆらいでおり、そこにはフラクタル性と呼ばれる自己相似な統計法則が隠されている。心拍ゆらぎのフラクタル性に着目した解析法を紹介するとともに、その生理学的起源を探る。(第6章:清野健、山本義春)
○東海地方の地殻活動に見られるゆらぎが、東海地震の発生と因果関係を持つものなのかどうかを検証することはできないだろうか。対数周期振動という規則性をもつゆらぎを導入して水準測量データに見られるゆらぎを説明することを試みる。(第7章:五十嵐丈二)
○半導体や抵抗体中に見られる1/f ゆらぎは、古典統計力学の基本定理「エネルギー等分配則」が熱平衡状態で成立せず、各自由度へ分配されるエネルギーが1/f ゆらぎをしていることに由来していることが、明らかになった。その結果として、各自由 度へ分配されるエネルギーの平均値は一定値に漸近しないのである。(第8章:武者利光、鷹野致和)
○丸ごとの細胞集団としてはアナログな過程に見える現象が、細胞の1個1個のレベルでは、ディジタルな過程として生起していること、さらに1個の細胞の内部でもゆらぎには外来性と内在性の両方の起因が存在することを概観した。(第9章:佐竹正延)
○これまで、工学的な制御では、ゆらぎをできるだけ減らすことが常識であったと思うが、情報流の制御に関しては、むしろ逆で、流量変動のゆらぎがより大きくなるような方向に制御すべきである。(第10章:高安美佐子)
○イノベーションの数理構造がはじめて明らかになった。企業の戦略行動がブレークスルーを引き起こすとき、カオス的探索による発見的プロセスがある。ブレークスルー・マネジメントに新知見がもたらされた。(第11章:阪井和男)
○金融市場の膨大なデータの山に対して、統計物理学の概念や手法を適用して解析し、まず、データから直接導かれる経験則を確立し、ついで、それらの経験則を説明するような理論を構築する。さらには、その理論を使って予測や制御・リスクヘッジなどの実務的な応用研究を進めよう、というのが、エコノフィジックス(経済物理学)の戦略である。(第12章:高安秀樹)
○近年の中国農村は、政府の「市場経済化」政策の下で急激な変動の道を歩んでおり、そのなかで、政策的意図には必ずしも沿わない「ゆらぎ」現象も多発している。(第13章:細谷昂)
○ゆらぎに満ち溢れた世界に生存するわれわれ生物は、それを巧みに利用することができる。ノイズが微弱信号を増幅する確率共振現象が代表例である。確率共振を人工的に「起こす」ことにより生体機能を向上させる、ノイズの「利用」について解説した。(第14章:相馬りか、山本義春)
○生命フラクチュオマティクスの方法論上の重要なポイントは、個体レベルの機能状態を常にモニターしながら、下位の階層の「ゆらぎ」を計測し、その特性解析を行い、解釈モデルの創出を目指すところにある。(第15章:山本光璋)